消滅した上萱部落(うえがや)
テレビで3000メ−トルの高地に棲む一妻多夫のネバ−ルの部族をやっていた。生活するために家同士の結婚になった。つまり分家するほど土地がないからだ。ネパ−ルのような高地でさらに上へ上へと家があることに驚いた。なぜだろうと思ったら下は畑にしてしまい上を畑にするほかなかったのだ。つまり分家した人は耕す地を下にないから条件の悪い上へ上へと行くほかなかったのだ。だから条件の悪い所は意外と歴史は浅く新しく住んだ人達である。ネバ−ルではカトマンズから近い山の部落でも電気がないのに驚いた。おそらく医者もいないのだろう。ただ盛んにミルクを運んでいたからカトマンズに運び現金収入にはなっている。その暮らしは江戸時代に帰ったような不思議な気持ちになった。日本でも電気は山の方では戦後20年くらいして入ったのだ。子供の時は裸電球だった。裸電球、炭、、トタン屋根とか飯台とか貧しい暮らしだったのだ。冬でもひゅ−ひゅ−すきま風が入り雨漏りする家だった。電気がない山の村もかなりあったのだ。竹細工していたが竹屋もいたのである。ネバ−ルに一回行ったがあんな山の上で生活している人に驚いた。一回行ったから多少は理解できるのである。
その山村は昔の日本の山村の暮らしと通じる所があるのだ。子供と若者が多いし人が多いということ村がにぎやかに感じたのである。おそらく日本の昔の山村もそこに炭焼きなどの生活があり過疎ではなくにぎやかだったのだ。村が生きていたといえる。日本の山村は何かそうした人間の活気は失ってしまった。老人だけの村となり老後を住む人が都会から空き家となった家を借りて住む。飯館のいつも行く山陰に新しい道ができた。二軒あった一軒も空き家となっていた。あそこも共栄橋とあったから後から開拓に入った所だった。新しい道ができても人はそこに住まず道だけが公共事業でできる矛盾である。ある山村では公共事業の道作りが現金収入の道となっている。
日本は戦後急速に変化したのだ。戦前は卵が食えなかったという話は信じられなかったがおそらくそうなのだろう。卵は贅沢品だったのだ。こう考えるとどうして日本がアメリカなどと戦争したのか不思議である。アメリカ兵が粗食で戦う日本兵に驚いたというのもうなづける。やはり情報の不足があった。アメリカの暮らしなど伝えられていなかったのだろう。そもそも歴史には謎が多い、モンゴルの元は大船団で攻めてきた。それがどうして台風の時期にきたのかそういう情報が入っていたはずである。日本の無謀さも情報の不足にあったのだ。外国に対する無知があったのだ。本土上陸で竹槍で戦おうとしたことこれも余りの情報の不足を示している。
自分の町でも条件の悪い所は新しく住んだ人達だった。上萱は山の上に孤立したようにあった。今は家はないが歴史は浅い。明治以降に入植したことは確かである。暮らしは蚕とか炭焼きだった。家は五六軒しかなかった。町の燃料店が一括して炭を買っていた。上萱には電気も水道もなかった。保健婦は幻灯機をもって説明した。水道がない時代は川で洗濯していた。上萱の歴史は完全に消失した。というのは土を盛った墓があったのだがそれも移したらしくなくなっていたからだ。条件のいい場所は人が早く住んだ所である。人が増えると条件の悪いところでも住まざるをえなかったのだ。世界がまだ国に分かれていない時は盛んに人の移動があった。世界には未開の地があり人が増えると分散を強いられたのである。戦後でもなぜフラジルとか海外移住が奨励されたかというと増える人を日本だけで養いきれなくなっていたからだ。日本ではその余裕がなくなっていたのだ。戦争で満州に開拓地を求めたのもそのためである。戦争というのもゲルマン人の移動とか民族の移動が戦争になっているのだ。工業化できない時代だから耕地を求めての移動だったのである。人類には地球にはそうした未開の地、開拓するべき土地はもはやなくなった。人類は一つの宇宙船であり江戸時代のようなリサイクル社会で生きることを強いられる。人類はもはや飽和状態になったのだ。
上萱に残っていたのは一本の桜の樹だった。あの桜はあそこに人が住んでいた時咲いていた。何か昔を人をなつかしむようにたっていた。今はもう桜も咲いて散ってしまったろう。やはり山村とか都会と違いかえって人がいないと淋しいし生きたものとならない。田舎と都会のバランスがとれないとだめなのだ。でもどうしても便利な都会に人は集まるのだ。
上萱の桜の樹
上萱に昔四五軒家ありぬ
炭焼きと蚕を飼いて暮らす
今は人棲まず墓も移れり
上萱の道上りきて我が寄るは
残る一本の桜の樹かな
冬を越しここに変わらず立ちぬ
人は去り人は変わりぬ
されど変わらず一本の桜の樹は
昔ここに棲む人の見しごとに
ここに変わらず立ちて花の咲くらむ
(四五軒の部落に一本桜咲く今は見る人もなくて淋しき)
上萱を訪ねてみれば花は散り一本桜なお残るかな
上萱に上り来たりぬ夏の鳥
一軒残った家も消えた
墓も移されてなくなった
残る一本の桜の樹