小林勇一作


石に記憶された花

私はもう都会のことは語りたくない
小さなこの庭に二つの石がある
ここに四季にとりどりの花が咲いた
春の和やかな光と夏の強い日ざしと
秋から冬へのうすれゆく光と
ここに様々な花々が咲いた
この一隅の小さい庭に様々な花が咲いた
その記憶が美しく再びよみがえる
ここは花々で満たされていた
喜びの花で満たされていた
花々の饗宴が絶え間なくあった
そこに描ききれない語り尽くせない
花々の語らいがくりひろげられた
あなたは刺激を求めて大都会に行った
そこに何があったのか
私の心に大都会は何も残さなかった
今は何も語らないのはなぜか
このわずかな一坪の庭の方が
様々なものを記憶して語っている
この二つの沈黙の石はそれを記憶している
大都会の喧騒は記憶されない
ただ虚しく消尽される
あなたは急いであせり何をしようとしたのか
あなたは何もする必要がなかった
あなたはただ訳もなく駆けずり回り
神の世界を汚しただけだ
そもそもあなたの心が汚れていたから
あなたは神の御意なる美が見えなかった
あなたは世界を駆けずり回っても何も見えない
あなたが何かをすれば世界が汚れた
あなたが何かをすれば世界が混乱した
あなたは世界帝国を作り支配したいのか
そこに喜びが作られるのか
そこに生まれるのは恐怖と憂い
すべての王もまた不満のうちに死んだ
大帝国とて汝のものにあらじ
あなた一人で所有できるものではない
あなたが持ちうるものは小さきもの
神が与えるものは小さき少なきもの
それでたらざれば災いの来たらむ
あなたは何もせぬがよい
神が整い神が与えしものを知らず
お前は世界を闇雲に駆けずり回るだけだった
お前の努力は徒労に帰した
この小さな庭の方が豊かさを生んでいる
それを知るものは知る
我が秘密の花園に花は尽きることはない
死ぬまでその饗宴はつづき楽しませる
石はその花の記憶を留めている





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