砂場遊び三編 小林勇一

砂場の舟

砂場の王国

砂場の川と人形



砂場の船

(一)

子供は砂場でいつものように遊んでいました。そこに一人の暇なおじさんがやってきました。
「何して遊んでいるんだい」
「なにしようかな」
「じゃね、ここは海にするんだよ」
「海なら船がいるね」
「そうそう、海に船が浮かんでいるね」
「じゃ、その船をつくらなきゃ、船はなにがいいかな」
「その辺の紙でもいいよ、探してこいよ、・・・・」
と一緒に遊ぶ仲間の子供が言いました。
「こんなボ-ル紙でいいかな」
「いいよ」
それから子供はおじさんに聞きました。
「これからどうするの」
「う、そうだな、まず、海があれば陸がある、それを分けるんだよ」
「石で線をかけばいいよ」
「そうだね、こんなふうに」
子供砂に一本の線を引っ張りかきました。
「右が海で左が陸だ」
「海には船を浮かべなきゃ」
「さっきのボ-ル紙ちぎってうかべなよ」
おじさんは楽しそうに子供のすることを見ていました。
「船にはとまるところがあるね」
「ミナトかい」
「そう、船にはミナトがいるね」
「ミナトをどうする」
「じゃ、石ころでミナトをつくるといいよ」
「なるほど、石ころを並べればミナトになるね、それよりミナトは陸のなかにあるんだよ」
「陸のなかって」
「陸にはいりこむ、湾になっているょが多いんだ、つまりこういうふうにだよ」
おじさんは石で陸と海を分ける線から半円をえがきそこを湾にしました。
「ここがワンか、ここに船が入り休むの」
「そうだよ、船は風が吹くとね、昔の船はこのワンで風をさけて休むんだよ」
子供たちは昔の船といったのでわかりませんでした。
「昔の船ってどういう船なの」
「ホがあって風を受けて走るんだよ」
「アニメで見たことあるな」
「あれか、大きなホの船を見たよ」
子供は何か思いついたのか紙きれを探してきました。そしてボ-ル紙のちぎった上に落ちていた針金のような鉄をさして立てました。
「こうふりゃ、ホだよ、風を受けて走るホの船だ」
子供たちは盛んにホの船を走らせて競争して喜んでいました。
「お前は上から船をはしらせろよ、ボクは下からはしらせるから」
船は上からくるものと下からくるものであるところで出会いました。
そこでは何回も船はであいました。
そこでおじさんは言いました。
「そこにミサキをつくりな」
「ミサキって」
「海に向かって陸がでているところだよ」
「ああ、そうか、石ころで海に線を突き出すようにえがきました」
「う、そのミサキの名は行合岬(ユキアイミサキ)だよ」
「めんどうな名だな」
「そこで船が出会うからだよ」
子供たちはまた船を行ったり来たりさせていました。その船はその行合岬で出会いました。
「行合岬だよ、船の出会う場所だ」
子供は船をはしらせるのにあきてきました。
「おい、そろそろ船を休ませようぜ」
「風吹いてきたから船休ませるんだ」
こうして石コロ手えがいた湾に船を休ませました。
「このつづきは腹へったのであとにしよう」
子供はオヤツを食べに帰ってゆきました。暇なおじさんはそこにずっといました。

(二)

また子供たちがやってきて遊びのつづきをはじめました。
「さてこれからこの船はどうなるのかな」
「おじさんに聞いてみたら」
「この船をあとどうなるのかな」
「船のミナトをつくったし、ミナトはいくつもある、だからワンをもっと作りな」
「ああ、そうか、ワンがもっとつくろう、ワンからワンのミナトへと船は行くんだ」
「それから船はからっぽじゃないんだよ大事なものがあるんだがな、船は宝物をつんでいるんだよ」
「ああ、そうだ、そうだ、宝物だよ、宝物見つけてこいよ」
子供たちはいきおいよく宝物を探しに辺りを走りまわりました。
「あったかい、なかなかいいものはないな」
「これはどうだ、うう、ガラスのハヘンか、あぶないよ」
「家には一杯宝物あるけどな、家からもってくるか」
「一円玉でもいいよ、五円でもいいな、これも宝物だよ」
「これちょっと変わった石コロだからこれを宝物にしようぜ」
こうして船にのせる宝物はきまりました。急いで宝物をもちホの船にのせました。
「さあ、宝物つんでミナトからミナトへ走らせるぞ」
「よ-し、出発だ、宝物は遠くのミナトへ運ぶぞ」
こうしてホの船につまれた宝物は遠くのワンのミナトへ運ばれました。
「さあ、宝物は遠くのミナトへついたぞ、ここでおろすぞ」
そこでまたおじさんがでてきました。
「宝物はどうする、宝物は隠すんだよ、隠さないととられちゃうよ」
「う、宝物はヒミツだ、ヒミツの宝物だ」
「よし、この湾のミナトの砂にうめてわからないようにしよう」
こうして一円や五円や変わった石コロの宝物は砂にうめられました。
「お-い、ここにうめた宝物のことはヒミツだよ、ヒミツだよ、誰にもおしえちゃだめだぞ」
「おじさんもヒミツだよ」
おじさんはだまってうなづいていました。宝物を砂にうめて船もはなれて子供たちも帰ってゆきました。暇なおじさんは子供が去ったあとにもそこにしばらくいました。でもいつのまにかどこかに消えてしまいました。そこには明るい春の満月がほほえむように照らしていました。砂場に子供たちの遊んだあとがのこりそれがなになのか大人たちにはわかりませんでした。関心もありませんでした。それは子供たちだけが知っているヒミツでした。子供たちは互いにそのヒミツの宝物の夢を見て眠りにつきました。それは本当に子供達の宝物だったのです。それは大人には見つけることはできない宝物だったのです。満月のお月さんはその宝物のうめたありかを知っていたようです。でもお月さんも誰にも教えないでしょう。そこにはまた真夜中風が吹いて海と陸を分かつ線も消えボ-ル紙の船もとばされてしまいました。しかしその砂場にはなお一つの人影があったのです。そしてその影はささやいていました。
「あの星を見てごらんよ、あの星を特に北極星を見てごらん、あの星を見て船は行き来したんだよ、あれは海のカジ星とも言われていた、カジをとる目印の星だった、北極星は動かないから船の目印だったんだよ」
その影は子供のいなくなった砂場向かい名残おしそうに一人ささやいていました。

それからまだ人影はそこにいました。どうしてか五円玉をその影はひろい端の砂場の湾からす-と手で線をひき陸の真ん中にもっていきました。それは湾から陸の中へそれも奥へ通じる道でした。そこに五円玉をうめました。そしてそこに手で小国と書きました。それは陸の山の中だったのです。それを知るのはお月様の他は誰も知りません。そしてしんとして月の影が照らしているだけでした。






砂場の王国

(一)

子供たちは今日も砂場で遊んでいました。
「今日は何してあそぼうか」
「この前は舟であそんだね、あれおもしろかったね」
「うん、おもしろかったよ、あの誰かわからないおじさん来ないかな」
するとまた暇なおじさんがやってきました。
「この前のおじさんだね、何かおもしろいあそびおしえてよ」
「う、そうだな、王様あそびはどうだい」
「王様あそびってなに」
「この砂場は王様の国なんだよ、いくつもの王様の国がここにはあった」
「ええ、おじさん、ここは砂しかないよ」
「いや、ここにはたくさんの王様の国があったんだよ」
「じゃ、その王様の国を見せてよ」
「じゃ、石コロをいろいろひろってきなよ」
「よし-、みんな石コロをひろってこいよ」
子供たちは散らばり石コロを大きいのから小さいのをいっぱいひろってきました。
「おじさん、こんなに石コロあつまったよ」
「う、じゃね、大きな石は王様なんだよ、だから王と書きなよ」
「王って」
「王様のことだよ」
「トランプのキングか」
「そうだよ」
「ええ、この石コロが・・・」
「そうだよ、これが王様さ、それに王と書けば王になるんだ」
「王という字しっているかい」
「知っているよ、お母さんにおしえてもらったから」
「なにで書こうか、書くものないな・・・・・」
「ここにクギがあるからこれでひっかいて書いてみな、なるべく王の字は消えない方がいいんだよ、王様は偉いから簡単に消えては困るんだよ」
こうして子供たちはけんめいに石にクギで王という字をひっかき書きました。「めんどうだったけど王と書いたよ」
「これが王様なんだよ、さて王様には家来(けらい)がいるね、王様は偉いからね、その家来は集めてきた小さな石コロだよ」
「なるほど大きな石は王様で、小さな石コロは家来かおもしれいな」
こうして子供たちはいくつか大きな石に王とクギでひっかいて書き、次に小さな石コロをそのまわりに集めました。
「じゃ、これからどうするの」
「王様の国は砂にうもれてあったんだよ、だからこの王と書かれた大きな石と家来の小さな石コロをいっしょに砂にうめるんだよ、ああ、王様の国は金持ちだね、だから宝物をうめなきゃならんね、一円玉か、五円玉か、何か宝物をさがしてこいよ、いっしょにうめるんだよ」
子供たちはまた辺りをさがしまわり金属の破片とか何か玉のようなものとかひろってきました。そして子供たちはおじさんに言われるとおりに砂にうめました。あっちにもこっちにも砂にうめました。
「オレはここにうめたぞ、この王様にはたくさんの宝物もいっしょにうめよう、これは一番大きな石だから一番大きな国だ」」
「オレはこっちだ」
「オレははなれたここだ」
こうしていくつかの王と書かれた大きな石と家来の小さな石コロに宝物は砂場にうまりました。
「おしさんあとはどうするの」
「ここには王様の国がうめた分だけできたのさ、だから王様の国をほりだすのさ」
「ああ、腹へったからおやつ食べてからにしよう」
「そうしよう」
「じゃ、またくるからね」
子供たちはこうして家におやつを食べに行き散っていきました。

(二)

また子供たちがオヤツを食べて元気になり砂場にやってきました。
「こんどはどうするのかな、おじさんはどこかな、あ、あのベンチで休んでいるよ おじさん、このつづきの遊びをおしえてよ」
暇なおじさんはまたやってきました。
「前のつづきかい、みんなでうめた王様の国をほりだすんだよ、自分のうめた王様の国はだめだよ、他の知らない友だちのうめた王様の国をさがすんだよ」「よ-し、さがそう、さがそう」
こうして子供たちはそれぞれうめた王様の石をさがしはじめました。
「あれ、なかなかでてこないな、深いところにうめたのかな、ほってもほってもでてこないぞ、へんだな」
「あ、ここはでてきた、王様の石だ、家来の石コロも何個かでてきたぞ」
「こっちもでてきたぞ、一番大きな王様の石だ、家来の石コロもいくつかでてきたぞ、宝物の一円玉もでてきたぞ」
「こっちはなかなかでてこないぞ、どうしたんだろう」
一人だけいくらほってもほってもでてこないとなげいている子供がいました。「どうしたんだい、王様の石がほってもほってもでてこないんだよ」
「手伝ってやるかい、あるはずだよ、みんな見つけたんだから、誰か深いところにうめてしまったのかな」
「そうかもしれん、深い深いところに王様の石はうもれてしまったんだよ、
小さな石コロはでてきた、でもそれは王様の石ではない、何も書いていない、王と書いていないから」
「どこかにいっちまったな、王様の石が・・・・・」
そのうちそろそろ夕飯が近くなり帰ることになりました。
「まあ、一つだけ王様の石見つからなかったけど、いいや、しょせん石じゃねえか」
「それもそうだね、でも王とけんめいに書いたからもったいないんだよ」
「それもそうだけど、今日は帰ろう」
「帰ろう、帰ろう」
こうして子供たちはみんな家に帰ってゆきました。そのあとにはやはり大きなまんまるい春の月が照らしていました。そしてあそんだ砂場はもとの砂にならされてうまってしまいました。王様の石も家来もうまってしまいました。
ところで家に帰った子供の王様の石を見つけられなかった子供はベッドに眠りにつきましたが夢の中でけんめいに砂を掘り出してはなげいていました。
「王様の石がほってもほってもでてこない、でてこない、・・・・
でてこない、でてこない、ほんとうにあるのか、王様の石が・・・
でてこい、でてこい、王様の石、・・・・でてこい、でてこい・・・」
子供は夢の中でけんめいに砂をほっていました。そして小さな石コロはほりだして手にとったのですが
「こんな家来の石コロじゃない、王と書いた大きな王様の石がほしいんだ」
そうひとりごと言って夢の中でわめいていました。そしたら下のベッドに寝ていた姉が
「なにさわいでいるの、夢でもみているの」
「うううう・・・・うううう・・・」
いつのまにかまたこの子供はうとうとと夢を見てねむりについてしまいました。
そしてやはりその砂場に月影に照らされて人影がありました。
「ここにはいくつかの王国があったね、でもみんな砂にうもれて消えた
それは永遠にかえってこない、みんな砂にうもれてあとはきえるだけ」
遠い砂漠にうもれた国、それはもう誰も知らない、それは夢なのか、誰もほりだすことはできない王様の国、それは深い砂のなかにうもれてしまったのさ、ただ月がてらしている、ラクダの商人がその砂漠のそのうもれた王国の上を行く、宝とともに広い砂漠の深い砂のなかに王国はうもれてしまったのさ」
こう一人影はささやきやはり名のこりおしそうに砂場に影をのばしていました。





砂場の川と人形

・・・山から平地の市へ・・・・

砂場でまた子供たちが遊んでいた。そこにまたどこからきたのか一人のおじさんがやってきた。
「何してあそんでいるんだい」
「山にトンネルほっているんだよ」
「それも面白いかもしれんがもっと面白い遊びあるよ」
「ええ、どんな面白い遊び」
そのおじさんはポケットから小さな人形を三つばかりとりだした。サルとウサギとリスの顔した小さな人形だった。
「かわいい人形だな それで何するの」
「これでみんなで遊ぶんだよ」
「どんなふうにして」
「まあ、ワシの言う通りにしてみな、まずは山を作るんだよ」
それで子供たちは砂で山を作りはじめた。
「この山で何するの」
「まず山にこの人形をすまわせるんだよ」
それで子供たちは山にサルとイヌとリスの人形をおいた。
「山ではクリとか木の実がとれるからそれをもって今度は下の平らな所におりてゆく、そしてそれを平地で売るんだよ、平地では市(いち)が開かれているからだよ、いろんなものがそこに集まるんだよ、川でとれた魚や畑でとれた野菜や竹で作った籠(かご)や今は秋だから柿なんかも集まるだろう・・・小石でも集めて栗にすればいいよ」
そこで子供たちは小石を集めそのへんにあった紙で袋にしてもたせた。
「さあ、山をおりて平野の市にゆくぞ、何が売られているのか楽しみだな」
それぞれ子供たちにサルとウサギとリスの人形をもたせた。
「オレはサルでいいよ、オマエはウサギ、そっちはリスだ」
山をぴょんぴょんとそれぞれサルとウサギとリスは栗の実の袋をもって平地の市におりてきた。
「市は決まった日に開かれるんだよ、三日に開かれると三日市、四日に開かれると四日市となる」
「四日市はボクのおばさんの住んでいるところだよ、時々遊びに行くにぎやかなところだよ」
「そこは四日の日に市がひらかれたからそういう名になったのさ」
こうして山から人形たちはおりてきて平野にでた。
「この辺で市を作ろう、そのへんの石でも紙切れでも棒切れでもガラス玉でもなんでもいい、市に集めるんだよ・・・」
そこで子供たちはそのへんのものをいろいろ集めてきて平地の市においた。
「それから平地には川が流れている、この辺にぐる-と川を輪のように作るんだ」
そこで子供たちは輪のように砂をほって水を流しこみ川を作った、そこは一周できる川だった。
「川に舟がいるら、舟でこの川を一周するんだよ」
そこで板切れで舟を作った。舟は市のそばにおいた。
「この舟にのるにはお金が必要だ、お金はこの市で栗を売った金で払うんだよ」
「お金は、紙切れでいいね」
「まあ、なんでもいいよ、紙きれに数を書けばいいよ」
子供たちはそれで紙切れに数を10とか20とか書いた。
「じゃ、その金で舟にのるんだよ、舟にのるには金がかかるんだよ」
それで子供たちは紙の金を作りそれで舟に人形たちをのせた。
「さあ、舟で川をまわるんだ」
「よ-し、舟をこの川にまわらせよう」
子供たちは何回も川をぐるぐる舟に人形をのせてまわらせた。
「もう何回もぐるぐるまわらせたらあきたよ」
「それもそうだな、じゃ、次は大きな川を作ってごらん」
「小さな川から大きな川にでるんだよ」
それで今度は大きな川をみんなで作った。
「よ-し、そこにまた舟をおき舟で大きな川をくだるんだ」
そこで舟にのせられた人形は大きな川下っていった。

どんぶらどんぶら大きな川下れ
大きな川はどこに行くんだろう
どんぶらどんぶらどんぶらこ

「この川はどこにでるの、どこで終るの」
「う・・・これは海に出るんだよ」
「ああ、そうか、海だな、川は海に出る」
「大きな大きな海に出るんだよ」
子供たちはまた疲れてしまったので家に帰ってまた一やすみだった。でも子供たちは家に帰ってもつづきの遊びがしたくてうずうずしていた。

・・・・舟は海へ出る・・・・・

そしてまた砂場での遊びがはじまった。おじさんも子供たちを待っていた。
「海にでたら大きな舟が必要だよ、大きな舟を作ろう」
「そうだ、大きな船でないと海で沈んでしまうぞ」
それで子供たちは板切れで大きな船を作った。
「これなら、大きいから沈まないよ、ここに人形をのせよう」
サルとウサギとリスの人形はその大きな板切れの舟にのせられた。
「よ-し、広い海にこぎだすぞ、海は広いからいいな」
「でも、波がよせるからこわいぞ」
「海には何がある」
「海には島があるよ 島を作ろう」
そこで子供たちは砂を盛り上げて島を三つほど作った。
「まず一つ目の島に上陸させよう」
サルとウサギとリスの人形が舟にのせられて島に上陸した。それからその島を離れてもう一つの島にも上陸した。
「もう一つの島にも行こうか」
「う、行こう、島に宝がほしいな、何もなくてはつまらんよ」
その時おじさんがはっと気づいたように言いました。
「そのへんにある小さな貝をおみやげにもっていきな、貝はお金にするんだよ」
「お金か、貝が金になるのか、」
「貝はお金にはちょうどいいよ」
「よし、人形に小さな貝をもたせておみやげにしよう」
そこで島に小石を貝のようなものにしてもってかえることにしました。
「さあ、三つ目の島に行こうか」
「いや、今日はこれで終わりだよ、またその島に行けばいい、一度にはむりだ」
こうして島の探検は終った。
「なんかものたりないな」
「島の探検も終ったしな」
「そうかい、じゃ大波がおしよせるぞ そら、荒らしがきて大波がおしよせたぞ、舟はひっくりかえるぞ」
その時おじさんが手を大波にして舟をぐらくらゆらした。

ざぶんざぶんざんぶらこ
大波がやってきた
ざぶんざぶんざんぶらこ

「うあ-人形たちが海に落ちちゃうよ」
人形は海に落ちてしまった。大波にふりおとされてしまった。
「おい、岸に泳がないとおぼれるよ」
「そうだ、みんなけんめいに岸におよがせるんだよ」
今度はみんなで人形たちをおよがせて岸につかせた。
「ここで三匹のうち一匹は海におぼれて死ぬんだよ」
「サルかウサギかリスのどれが死んでしまうの」
「リスにするか」
こうしてリスは海におぼれて死ぬことになった。残ったサルとウサギは大きな川を上りまた小さな輪になった川をまわって市のあるところに帰ってきた。リスの人形はそこにはなかった。
「リスさんは海におぼれて死んでしまったね、海はこわいよ、かわいそうだね」
「それじゃ、墓を作ってみなよ」
「そうしよう、そうしよう」
こうして板切れで墓を作って市にたてた。リスの墓と書いてたてた。
「かわいそうだからみんなでお祈りしよう」
「そうだね、お祈りしよう」
こうしてはんなでリスのためにお祈りした。
そして残ったサルとウサギの人形はまた山を上って帰っていった。おみやげに持ち帰った貝は砂山に穴をほってうめておきました。
その時おじさんが言いました。
「貝という字をよくみておけよ、貝とついた漢字はお金はみんな関係しているからね、これから習うからね・・・」
「貝がお金という字に関係している」
「そうだよ、貝は本当にお金として使われたんだよ」
「そうか、貝は山ではめずらしいからね、めずらしいものはお金にもなるんだよ」
「まだ海にでてみたいな、でも海はこわいな」
「まだ行ってない島にも行ってみたいな、めずらしい貝をもっと拾いたいな」
こんなことを言って子供たちは人形をおじさんにかえした。
「また人形もって一緒遊んでね」
「う・・・次は海への大冒険だな」
遊びは終わりそれぞれの家に帰って行った。島から持ち帰った宝は山のてっぺんにうめられた。サルとウサギはいろんな世界、広い海まで知ったので満足そうだった。でもリスさんが死んでしまったので悲しそうでもあった。海のこわさを知ったので山は安全だと思ったのだ。でも島からもってきた宝は大事だった。子供たちは家に帰り今日遊んだ砂場のことを思い出していた。頭の中に砂場の地図が自然とできていた。そして気づいた。
「砂場遊んだ地図を作ってよみう」
砂場で遊んだ一人の子供は地図を書いてつくった。山から平地の市へ川をぐるぐるまわり海へ下った大きな川やそして海の宝をもってきた島を書いた。そして海のかなたにさらに大きな島を書いた。そこには何があるのかわからなかった。子供たちはいつしか眠りについてしまったからだ。
眠っていると夢に現れたのが波にのまれて死んだリスさんだった。そしてリスさんはまじめな顔で言った。

さらにかなたの島に行け
そこに真珠がある
海は荒れるだろうが
勇気を出してその真珠をえよ
ボクはそれを期待している
ボクは行けないが
代わりにかなたの島に行ってくれ
・・・・・・・・・・


「ああ、死んだリスさん、わかったよ、必ず行きます、真珠をとってきます、真珠をとって宝物とします、リスさんの代わりに必ず行きます・・・・・」
その時うなされるように叫んでいた。そしてハッと起きた。
「何か夢でも見たの」
お母さんは笑っていた。
でもその夢のことが心からはなれなくなっていた。