夏の故郷風景(鹿島町2005) 小林勇一

十数本アザミ鮮やか野に映えぬ

苔むせる古木の影の深しかも山帽子の花に風のそよぎぬ

木陰の里の道

この道に木陰のなして
我一人のみ行きて憩いぬ
ひそけく歩む細き鷺の足
つつしみて乱さずあれや
古沼に藤の花垂れて
家一軒の隠されありぬ
牛蛙の沼の底に沈みて
数匹でで虫は眠り動かじ
夕べの日影静かに老鶯鳴き
祖父の墓ありし故郷に
我も老いぬれあわれ
秋かしこの古沼にあれや
鴨の数羽の身を寄せ合いぬ
静けき道の良しかな
一人し歩みて穏やかにあれ
心乱さずあれやこの道の良し
この道の変わらざるべし
神の御意のごとくにここに
また一軒木立に隠れ家ありて
我が歩みて木陰に我は憩いぬ
蔓伸びて夏草伸びて道隠す沼に沈みぬ牛蛙かな

影深き山路下りてベコの湯や山神の碑の社も古りぬ

苔むせる古木の影の深しかも山帽子の花に風のそよぎぬ

十数本アザミ鮮やか野に映えぬ

猿の群れ木陰の深く隠る森

黄菖蒲に立目石あり真昼かな

新道や真近に鳴きぬ夏の鳥

輝ける夏の日

この道苔むす古木の影なして

山帽子の花に風のそよげり

立目石辻にまさしく動かじ

深き影なす森に猿の群れは隠りぬ

まじかに夏の鳥はしきりさえづり

輝ける夏よ、汗して山路上りぬ

かしこ古沼の道は夏草に覆われ

牛蛙は沼の底に沈みぬれ

アメンボウはしきりに輪を描き

薊の花は十数本今し蔓伸びて咲く

一すじ木陰なす道の良しも

輝ける夏の日よ、さえづる鳥よ

今日一日の糧の森にあれば良し

木の実は今豊かに実りついばむ

その自由の翼よ、思いのままに飛び

そに家なしも明日の憂いなしも

深き影なす森につつまれ安らかに眠りぬ

そは労せずして欠けるものなく与えられたり

他は知らじ心地よき微風や森に眠るべし

人よ、そはなお健やかなるべし

90の媼嫗のなお生きる世なりしも

北斎のようにその筆致は衰えるべからじ

天才ならずともなお地を耕すべし

そになお見るべきものあまたなり

神の御業はそが前に尽きることなし

輝ける夏の日よ、さらに新たな蘇る命よ

原生の大地に湧きあがる力よ!

我は生きなむ、神知ろしめす大地を海を山を

神の御業を讃えてやまざるべし

そのために神を我を生かしめるなり

立目石