観音寺 (小林勇一)
観音寺
静かなるかな花の影
その名のひびきやさしき
さそわれて旅人よりぬ
御寺に桜咲きそめ
女遍路の行きし古き径
一夜庵
訪ねれば去年の落葉
一夜にもあらじ
ただ一時のみたたずみ
一句残して去りにけり
そこにたたずむは
ただ去りゆく旅人の影
その跡に花は匂いて散りぬ
観音寺
静かなるかな花の影
その名のひびきやさしき
春の日ざしにつつまれあたたかく
汚れを知らぬ乙女の微笑のごとく
瀬戸内の海のおだやかに
寄する白波にあわれや
小さき巻貝の波にぬれ
旅人ひそか拾い帰りぬ
松林影なし静かや
銭型の砂絵は何を語るらむ
よする波のひびきや
一つ沖の小島も親しかも
観音寺
静かなるかな花の影
その名のひびきやさしき
幼子の遊ぶ砂場の箱庭のごとし
観音様のつつむ慈愛
我しばしのみこの地を歩みぬ
誰か知るその砂浜にしるす足跡
はや波に消されぬ
ああ 一時ひそけく訪ねて
去りし旅人よ またいづこへ
その波寄する砂浜に影は消ゆ
春の微風のごとく旅人は去りぬ
またいづれの日かこの地に来なむ
旅人の影のまたそこにありしか
みちのくははるか遠しも
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